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遺伝科genetics department

遺伝科

ご挨拶

2007年に登場した次世代シーケンサーは、医療に大きな変革をもたらしつつあります。この次世代シーケンサーを用いた網羅的なゲノム解析は、ヒトの生命現象をその設計図であるゲノムから考える際の手段となりました。その臨床応用は着実に進んでいます。一方で、医療における対象はヒトではなく「ひと」であり、こころを持つ、社会の中のひとりです。

自分や家族の遺伝病の原因を何としても知りたいと考えることもあれば、それを知りたくないと考えることもあるでしょう。その両方の思いが混在することもあります。遺伝情報は個人における疾患の易罹患性(病気への罹りやすさ)を示すだけでなく、世代を超えて子孫や家族に影響をもち、多くの情報を含むが故に特別な配慮が必要であるとされています(UNESCO「ヒト遺伝情報に関する国際宣言」2003年)。ゲノムシーケンサーが生み出す膨大な遺伝情報を整理し、伝え、ひとりひとりの人生に照らし合わせてともに考える遺伝カウンセリングは益々重要になるでしょう。

私たち遺伝科は、染色体がまだ実験室での研究対象であった時代から、小児医療の一領域として遺伝医療に取り組んできました。そして多くの先天異常症候群(Rubinstein-Taybi症候群、Sotos症候群、14番染色体父性片親ダイソミー、Costello症候群、Cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群など)の原因解明や自然歴研究に貢献してきました。また、わが国における先天異常の発生頻度を明らかにし、その発生動向を経時的にとらえる神奈川県先天異常モニタリングシステム(Kanagawa Birth Defects Monitoring Program:KAMP、および神奈川県新生児特別地域保健事業)の展開にも 多くの役割を果たしてきました。

未来に向けて私たちは、以下の4つの目標を掲げます。

  1. よりよい遺伝医療を実行すること
  2. 遺伝医学の発展に貢献すること
  3. 遺伝医療の発展にリーダーシップを発揮できる次世代の専門家を育成すること
  4. ひとの多様性を尊重する地域社会の構築に貢献すること

急速に発展する遺伝医学における新しい知識と技術を今日の診療に活かし、遺伝の問題を不安に感じている方々の健康と福祉に役立ちたいと願っています。

遺伝科の特色

  1. ゲノムシーケンス、マイクロアレイ染色体検査、RNAシーケンスなど先端的解析技術を用いた先天性多発形態異常あるいは発達遅滞を有するこどもたちの診断
  2. 遺伝性疾患をもつこどもたちの自然歴に基づいた健康管理
  3. 遺伝カウンセリング

診療内容

先天性多発形態異常あるいは発達遅滞を有するこどもたちの診断

先天性の形態あるいは機能的変化ないしは異常をもつことを先天異常といいます。先天異常は一般集団の約3-5%に認められ、その多くは原因がはっきりしません。新生児乳児期の死亡原因の第1位はこうした先天異常であり、その原因を明らかにすることは極めて重要です。原因を明らかにすることにより、その情報をこどもたちの健康管理や治療に役立てることができます。さらに、これらの情報は遺伝カウンセリングにおいても重要です。

先天異常の多くは根本的治療がむずかしいものの、その理解を深めることはとても大切です。私たちは、診断に基づいたこどもの健康や生活に関する正しい情報を親御さんに還元することをめざしています。

診断は遺伝学的検査を含めたさまざまな検査を組み合わせて行われますが、受診までの経緯や成長・発達歴、診察所見も大切です。遺伝学的検査はご本人、あるいはご両親の承諾を必要とします。診療では、丁寧な診察と分かりやすい説明を心がけています。

相談内容の例
  • 先天的に心臓に問題があり、発達も遅れています。しかし、理由がわかりません。教えてください。
  • ○○症候群を疑われています。しかし、診断は確定していません。はっきりさせてください。
  • 染色体検査でこどもの疾患の理由がわかりました。でも、もっと詳しい情報を教えてください。

遺伝性疾患をもつこどもたちの健康管理

遺伝性疾患の多くは、症状がさまざまな臓器にそれぞれ異なった時期から出現することもまれではありません。一人の医師がそれらをすべて管理することは不可能です。それぞれ臓器ごとの専門医が必要です。しかし、患者であるこどもはひとりの人間であり、臓器の集合体ではありません。しかも、健康管理と生活管理は切り離すことはできません。私たちは、こうした先天異常をもつこどもたちの自然歴にもとづいた健康管理をめざして、定期健診をおこなっています。

相談内容の例
  • こどもがダウン症候群と診断されました。今、何をしてあげればいいのでしょうか?
  • 幼稚園の担任に、こどものことをどのように伝えるべきでしょうか?
  • 最近、こどもの肥満が目立ってきました。どうしたらいいのでしょうか?

遺伝カウンセリング

先天異常の一部には遺伝性疾患が含まれます。家系内の遺伝の問題について不安に思うことは少なくありません。私たちは、遺伝と健康の問題について、正しい情報に基づいて遺伝カウンセリングを行います。遺伝カウンセリングは施設常勤の医師と認定遺伝カウンセラー(注1)が担当します。

(注1.日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会による。)

相談内容の例
  • 最初のこどもを遺伝病で亡くしました。次の子は大丈夫でしょうか?
  • 母方おじも、弟も同じ病気でした。今度結婚する私は元気なこどもを生むことができるのでしょうか?

主な取り扱い疾患

  1. Down症候群
    Down症候群は,常染色体異常症のなかで最も頻度が高く、21番染色体のトリソミーを原因としています。発達の遅れに加えて、心疾患や消化器疾患などの先天的な合併症が認められます。合併症には、滲出性中耳炎や甲状腺機能異常、環軸椎不安定なども含まれ、起こりうる疾患を念頭に置きながら進める定期的な医療管理が重要です。
  2. 先天異常症候群
    先天異常症候群は複数の臓器に先天異常がある疾患の総称であり、原因として染色体・ゲノムの異常や遺伝子異常が多くを占めます。当センターでは、代表的な先天異常症候群である歌舞伎症候群、ルビンステイン・タイビ症候群、ソトス症候群、CFC症候群、コステロ症候群などについて、原因解明から遺伝学的診断まで広く関わってきました。 診断・解析技術として、マイクロアレイ染色体検査や次世代シーケンサーを早期から導入し、診断と遺伝カウンセリングに応用しています。
  3. 原因不明の発達の遅れ、身体の多発形態異常
    当センターは、未診断疾患イニシアチブIRUDの地域拠点病院として未診断遺伝性疾患の原因解明研究に参加をしています。
  4. その他の希少疾患・難病
    先天性難聴、骨系統疾患、神経疾患、内分泌疾患、原発性免疫異常、遺伝性腫瘍など、小児では遺伝が関与する多くの希少疾患・難病があります。当科では各診療科と協力をして、遺伝学的精査と遺伝カウンセリングを行っております。先天性大脳白質形成不全症の一つであるPelizaeus-Merzbacher病の遺伝学的診断を行っています。

外来診療担当表

午前 黒澤 健司 黒澤 健司 - - 黒田 友紀子
齋藤 洋子
午後 担当医 黒田 友紀子
齋藤 洋子
- ゲノム外来
遺伝カウンセリング外来
黒田 友紀子
齋藤 洋子

スタッフ紹介

黒澤 健司

黒澤 健司 / 部長

専門分野

小児科学、臨床遺伝学

取得資格

小児科専門医、臨床遺伝専門医・指導医・指導責任医、臨床細胞遺伝学認定士・指導士

所属学会

日本小児科学会、日本人類遺伝学会、日本先天異常学会、日本小児遺伝学会

黒田 友紀子 / 医長

専門分野 小児科学、臨床遺伝学
取得資格 小児科専門医・指導医、臨床遺伝専門医・指導医、臨床細胞遺伝学認定士・指導士
所属学会 日本小児科学会、日本人類遺伝学会、日本小児遺伝学会

齋藤 洋子 / 専門研修医

専門分野 小児科学
取得資格 小児科専門医
所属学会 日本小児科学会、日本人類遺伝学会、日本小児遺伝学会、日本内分泌学会、日本小児内分泌学会、日本糖尿病学会
ページ内のコンテンツ一覧

専門研修について

当科で掲げている大きな目標の中の1つに「遺伝医療の発展にリーダーシップを発揮できる次世代の専門家を育成すること」があります。遺伝を基礎から正しく理解し、個々の患者様やご家族の福祉に貢献する、未来の日本や世界の遺伝医療と研究の発展に貢献できる、若い世代を育成していくことも重要な使命です。 当科では、遺伝医療の専門家を目指し、遺伝医学を基礎から勉強したいと願う若手医師に対して、開設当初から広く門戸を開いてきました。当科で研鑽を積んだ医師が各地の遺伝医療を担い、また新たな若手世代を育成していく遺伝学教育と遺伝医療の発展のスタート地点でありたいと願っています。

1. 研修目標

先天異常の発症メカニズム・自然歴を理解し、遺伝性疾患の診断と医療管理が実践でき、遺伝カウンセリングを含めたチーム医療としての遺伝医療を主導する能力を身につける。具体的な目標は以下。

  • 臨床遺伝専門医資格取得(日本人類遺伝学会)
  • 国際学会発表
  • 原著論文(英文)発表

2. 年度別到達目標

臨床遺伝専門医到達目標(日本人類遺伝学会)に定められた事項を研修する。

1年次

遺伝外来診療を通して、臨床遺伝の基本を習得する。細胞培養、細胞遺伝学的な基本手技・知識(種々の分染法による染色体分析・FISH解析)を身につけ、診療で実践する。院内カンファレンス、国内学会で積極的に発表をする。各領域の遺伝カウンセリングの流れと特性について学ぶ。種々の遺伝学的検査、マイクロアレイ染色体検査、網羅的ゲノム解析検査の解釈と報告書が作成できる。

2年次

初診から、その後の定期医療管理に至るまでを担当する。他科からの併診依頼については、的確なコメントが出来るように心がける。国内外を問わず学会活動に積極的に参加し、論文作成も行う。遺伝カウンセリングを担当し、的確な対応が出来るようになる。臨床遺伝専門医の資格取得を目指し、到達目標を広く達成する。

3. 分野別到達目標

I. 臨床遺伝
  1. 家系分析の理論および実際に習熟する
  2. 遺伝医学の教科書Thompson & Thompson, Genetics in Medicineを精読する
  3. 先天性形態異常の臨床診断に習熟する
    • 先天性形態異常の所見のとり方、記述法の習得
    • 発生学の概要の理解
    • 原因不明先天異常への診断アプローチ方法の習得
  4. 遺伝性疾患・先天異常の医療管理の方法を習得する
  5. 代表的な遺伝性疾患の遺伝カウンセリングの実際を理解する
  6. 遺伝疫学の基礎知識を習得する(特に先天異常モニタリングについて)
II. 遺伝学的検査・解析
  1. 染色体検査(各種分染法)の習得・実践
  2. 各種細胞培養技術(皮膚線維芽細胞株の樹立、その他)とそれら検体の保存・搬送に関わる技術の習得・実践
  3. 基本的な遺伝学的検査(サンガーシーケンス、定量PCR、MLPA法など)の解釈法習得
  4. FISH解析(BAC clone DNAの精製とラベリングによるプローブ作製を含む)の習得・実践
  5. マイクロアレイ染色体の解釈、報告書作成の習得
  6. バイオインフォーマティクス研修(パイプラインの理解、データベースの利用、次世代シーケンスデータの解釈、バリアント絞り込み診断)
III. 研究発表
  1. 日本人類遺伝学会、日本先天異常学会、日本小児科学会、日本小児遺伝学会、日本遺伝カウンセリング学会などの全国学会で年間少なくとも2〜3回(1年目は少なくとも1回、2年目は少なくとも3回)は発表する。国際学会発表をする。
  2. 原著英文論文を少なくとも1編は誌上発表する。
IV. 社会医療

臨床遺伝専門医制度細則(日本人類遺伝学会)に従い、学会参加・発表・論文発表などを点数換算し、2年の総合評価とする。さらに、実践的な能力評価として、2年目後期では、新患予診からその後の医療管理、遺伝カウンセリングを5例以上経験(担当医として)、研究課題の立案から発表までの組み立てが出来ることを目標として評価する。

V. 研修環境

指導体制

遺伝科部長、医長からの直接の指導のほかに、院内他診療科の臨床遺伝専門医の指導など、多くのスタッフが指導に当たる。

VI. 研修スケジュール

遺伝カンファレンス(週1)、ゲノムカンファレンス(週1)、ゲノムボード(月1)、新しい命のサポートセンターカンファレンス(月1)、抄録会(週2)

4. 施設内設備

I. 基本雑誌
  • Nature Genetics ・The New England Journal of Medicine ・American Journal of Human Genetics
  • Journal of Medical Genetics ・American Journal of Medical Genetics ・Human Mutation ・European Journal of Human Genetics ・Genetics in Medicine ・Clinical Genetics ・Human Molecular Genetics ・Prenatal Diagnosis ・Human Genetics ・Congenital Anomalies ・Journal of Human Genetics
II. 遺伝学的解析機器(施設内)
  • LightCycler 96 (Roche)<qPCR>
  • 蛍光顕微鏡(カールツアイス)< FISH解析・一般染色体分析用>
  • PRISM310 (Applied Bio.) <サンガーシーケンス解析用>
  • DNAマイクロアレイシステム(Agilent) <マイクロアレイCGH解析用>
  • Verti Thermal Cycler(Applied Bio.)<PCR用>
  • Miseq(イルミナ) など

ヤング・シンプソン症候群の診断基準作成と
実態把握に関する研究

ヤング・シンプソン症候群に関する研究成果を患者さんやご家族、医療関係者の方々へ広く発信し、患者さんの健康と福祉に還元することを目的としたサイトです。

詳しくはこちら

遺伝カウンセリングについて

遺伝カウンセリングとは

遺伝カウンセリングは、遺伝に関連する疾患・体質に関して悩み・不安・問題をお持ちの方々に対しご相談に乗り、正確な情報に基づいて問題解決のお手伝いをするプロセスです。 医師による検査・診断・ご説明や遺伝カウンセラーによる心理的支援などを行います。具体的には以下のようなご相談を対象としています。

  • 長女がダウン症候群だが、次の子がダウン症候群となる可能性は高くなるのか。
  • 兄が先天性代謝疾患で亡くなっているが、自分に同じ病気の子供が生まれる可能性はあるか。
  • いとこと結婚したいが、子供が遺伝の病気を持つ確率はどれぐらいか。 など

受診の手順

当センターでの遺伝カウンセリングは予約制となっております。

  1. 電話でご相談の予約
    まず代表番号045-711-2351にお電話頂き、地域医療連携室の担当者に遺伝カウンセリング希望とお伝え下さい。認定遺伝カウンセラー®から後日お電話させて頂く連絡先とご希望の時間帯を担当者にお知らせ下さい。
  2. 認定遺伝カウンセラー®と打合せ
    認定遺伝カウンセラー®からお電話をします。ご相談の概要を伺い、受診予約を設定いたします。お話を伺うのに30分程かかります。
  3. 遺伝カウンセリング当日
    当センター初診の場合はカルテ作成などの事務手続きから必要になりますので、ご予約時間の30分前にご来院下さい。
  4. 遺伝カウンセリング
    遺伝科医師と認定遺伝カウンセラー®がお話を伺い、問題解決のお手伝いをいたします。内容により、1回から数回の受診が必要になります。遺伝科医師とお話し頂いた後に、別の場所で遺伝カウンセラーとお話し頂くことも可能です。
  5. 受診費用
    遺伝カウンセリングが保険診療の対象として認められるのは特定の疾患の検査結果説明の場合のみです(遺伝カウンセリング加算)。これに該当しない遺伝カウンセリングは原則として自費診療となり、初診時おひとり1回につき約13,000円〜がかかります。

※診察室に入ってご相談をされる大人の方おひとりずつに受診料がかかる事になります。

※再診時は再診料がかかります。

※お子さまに来院頂く必要がある場合、当院で治療を受けているお子さまに対しては原則保険医療としての受診費用がかかります。当院を受診したことがないお子さまには、初診料金と初診料特定療養費がかかります。

※ご相談内容(特に検査の有無など)によっては上記に加えて追加費用をご負担頂くこともあります。

ご不明な点は事前に医事会計担当にご確認下さい。

当センターの遺伝カウンセリングの対象

当センターは小児専門医療機関であり、染色体異常症、神経疾患などの小児の内科疾患の治療の他、先天性心疾患や先天性形態異常などの外科的治療に関しても日本で有数の治療実績があります。また、周産期センターを併設しており、超音波検査による胎児診断に関しても多数の実績を有しています。 また、院内で種々の疾患に対する遺伝学的検査が可能な体制を整備しています。小児の染色体異常症、先天形態異常などの遺伝・再発に関する遺伝カウンセリングに関しては年間90件以上の実績があります。

当センターで可能な遺伝カウンセリングの例
  • 染色体異常の診断・再発可能性の推定
  • ペリツェウス・メルツバッハー病の診断・再発可能性の推定 など

一方で、小児専門医療機関であるため、成人期の疾患に関しては遺伝カウンセリングまでは可能な場合であっても、検査が出来ない場合もあります。また、治療は原則できません。当センターで検査・治療などの対応が困難な場合、適切な施設へご紹介することもあります。

ご相談例

父が成人期発症の遺伝性疾患の診断を受けたが、自分や自分の子どもはどうすれば良いのか? (ご相談の後、ご本人の治療が必要な場合は適切な施設へご紹介します。)

担当スタッフ

  • 黒澤健司
    遺伝科部長 臨床遺伝専門医・指導医
  • 黒田友紀子
    遺伝科医長 臨床遺伝専門医・指導医
  • 西川智子
    看護師 認定遺伝カウンセラー
診療科

総合医療部門

内科系専門医療部門

外科系専門医療部門

こころの医療部門

周産期医療部門

医療技術部門

局・その他

地域連携・家族支援局

看護局

スペシャリストチーム等

専門医資格

入所施設

医療型障害児入所施設

臨床研究所

臨床研究所

ご来院される方へFor those visiting the hospital

受診のご案内

当センターの診療は、医療機関等からの紹介予約制になっています。

  • 診療受付時間08:30~15:00
  • 休診日土曜・日曜・祝日

診療時間は各診療科によって異なります。
詳しくは外来担当医週間一覧表をご確認ください。

アクセス

〒232-8555 
神奈川県横浜市南区六ツ川 2-138-4

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