ペルテス病
ペルテス病とは?
ペルテス病は股関節におこる病気です。股関節は、大腿骨頭(大腿骨の球形をした先端)が、骨盤の臼蓋というボールをうけるカップをひっくりかえした屋根のような骨にはまりこんでいる関節です。原因はよくわかっていませんが、大腿骨頭の血のめぐりが悪くなって弱い状態となり、つぶれて変形をおこします。似たような病気で大人の大腿骨頭壊死というのがありますが、大人の場合は、壊死してしまった部分は再生しないため、回転骨切りや人工関節骨頭などの手術が必要なことが多くなります。こどもの場合は2~3年くらいで良好に再生してきます。しかし、再生までの期間になるべく変形を少なくすることが重要です。
発症年齢は4~9歳で7歳くらいに好発します。一般的に幼稚園児などの低年齢の子は早くきれいに治り、小学校高学年になると、治るまでに時間がかかり、変形も生じやすくなります。男女比は4:1で、元気のいい小柄な男児に多く見られます。発生率は1万人に1.5人と言われ、そのうち約10%が両側に発症しますが、たいていは片方がなってから2年以内の違う時期に反対側が発症します。症状としては股関節部、大腿部、膝の痛みを訴えることが多いですが、痛みをほとんど訴えないケースもあります。特に年少児では痛みを訴えずに、足をひきづるだけのこともあります。股関節の動きは制限され、足を開いたり、ねじったりすると特に痛がります。
病期は①初期(滑膜炎期)②硬化期(壊死期)③分節期(修復期)④再生期(遺残期)に分けられます。
①初期(滑膜炎期)ではレントゲン像でほとんど異常がなく、単純性股関節炎との鑑別にMRIが必要なこともあります。
②硬化期(壊死期)では骨端部の骨が白く硬化したように見えるためこのように言われますが、実際は硬くなっているわけではありません。壊死により骨端が軽度扁平(つぶれた状態)化するため、骨の中にある骨梁という組織の密度が高くなり、結果的にレントゲン線の透過性が低くなるのでそのように写ります。軟骨下骨の骨折線や骨幹端部の嚢腫様変化(骨頭の下の骨が薄く見える)がみられることもあります(図1)。
③分節期(修復期)では壊死した部分の骨と生き残った部分の骨の間に毛細血管が進入するため、その境界が明瞭になり、骨頭の扁平化が修復しはじめます(図2)。
④再生期(遺残期)では新しい骨が作られ、徐々に円形または楕円形となってきます(図3)。
図1 硬化期(壊死期) Sclerotic Stage
図2 分節期(修復期)
図3 再生期(遺残期)
ペルテス病の治療法について
国内施設での治療方法は大きく3つに分けられます。第1に入院にて完全免荷装具を中心に治療するコンテイメント療法(壊死骨頭を臼蓋部で被覆することで球形を保とうとする治療法で、世界的に行われている)で、岡山の旭川荘療育園、宮城の拓桃療育園などの肢体不自由児施設で行われています。神奈川県立こども医療センターでの治療もこれに属します。2つめは外来にて外転免荷装具で保存療法を行うもので大学病院などで行われています。3つめは大腿骨内反骨切り術や骨盤骨切り術などの手術治療を行うもので大学病院や一部の小児病院で行われています。 欧米では手術が行われることが多いですが、日本では保存療法(手術をしない方法)が主流です。装具療法は股関節を外転内旋位(足を開いて、内向きにする姿勢)に保つという点では一致していますが、体重をかけるかどうかで種々の装具があり、当科では原則的に肢体不自由児施設の入所を勧め、完全免荷(全く体重をかけない状態)のもとにコンテイメント療法を外転装具を用いて行っています。
入所による保存療法では、まず入院したら、初期は股関節が炎症のため腫れていることが多いので、24時間ベッド上での牽引を行い炎症を引くようにします。2~3週で股関節の外転制限が改善したら バチェラー型の外転装具を作成し、装着しての車いす移動を許可します。その後は数ヶ月(平均10ヶ月)にわたって完全免荷、車いす移動を厳守します。 この間、筋力、可動域維持のためのリハビリテーション訓練を毎日行います。大腿骨頭の壊死骨の吸収が完了し、十分な新しい骨がレントゲン上で確認できましたら、歩行可能なタヒジャン型装具に移行して3~4ヶ月使用します。その後装具なしでの歩行訓練を開始し、歩行が安定したら退所としています(図4)。
図4 牽引(左上) バチェラー型外転装具(左下) タヒジャン型装具(右)
ペルテス病の治療後の経過について
治療後の成績評価にはスタルバーグ分類が用いられます。骨頭変形が軽度で関節面の適合性が良いⅠ型とⅡ型を良好な成績とすることが多いです。Ⅲ型以上になると、若い時には無症状ですが、40歳以降で高率に変形性股関節症に移行し、疼痛が出現すると考えらています。治療後のスタルバーグ分類Ⅰ型とⅡ型といった成績良好群の割合は、肢体不自由児施設のように入院させ完全免荷を行っている施設では70~80%が良好です(図5, 図6, 図7)。しかし外来での保存療法では50~60%くらい、手術治療でも60%くらいにとどまっています。これは、外来で治療を行う場合、どうしても免荷が徹底できないことによると思われます(図8, 9)。すなわち、痛みが軽くなってくるとどうしても歩いてしまうし、車椅子で学校に行くことはバリアフリーとなっていない日本の学校では困難なことによると考えます。しかし入院させる施設の平均入所期間は12ヶ月から36ヶ月と長く、神奈川県立こども医療センターでも14ヶ月と長期になっています。その点、当院は小中学校を併設しているので教育面も十分バックアップできています。むしろ、学校の先生方のケアが良く、「入所中の方が良く勉強してた」という親御さんもいらっしゃいます。一方、母子分離もそこそこの年少児の場合(3~4歳)は、最初のみ入院させ、同じ病気で同じ装具を使って治療している子供達がいることを見せ、装具治療や車いす利用を促します。そして、壊死範囲が広くなくて、自宅でも免荷が守れそうな場合には外来で経過をみることもあります。
図5 8歳男児 右ペルテス病 入所治療例:発症後6ヶ月
図6 発症後1年
図7 18歳の最終診察時
図8 3歳男児 右ペルテス病 免荷不良例(左)
図9 18歳時(右)
ペルテス病を手術して治すことはありますか?
最近では昭和大学藤が丘病院の渥美教授が考案した大腿骨内反回転骨切り術を行うことがあります(図10)。これは比較的簡便で安全な手術法で骨頭後方に残存した関節面を荷重面に移動させ、良好な骨頭形態が得られるというものです。この手術を行うようになってから8歳以上で壊死圧壊が重篤な患者さんでも、重度な変形を残すことはまれになりました。すなわち8歳以上で治療前にグループCまたはB/Cだった群のうち、86%がスタルバーグ分類のⅡ型と良好な成績になりました(手術をしない保存療法群では56%)。ただし、術後も病期がなかなか再生期に移行しない場合には、手術後も相応の免荷期間を推奨しています。
図10 術前(左) 術後(右)
ペルテス病と単純性股関節炎について
ペルテス病の初期では単純性股関節炎との鑑別が難しいことがあります。単純性股関節炎は風邪をひいた後などにアレルギー反応のように起こるという説もありますが、はっきりした原因はわかっていません。一過性の股関節炎で、たいていは1~2週間の安静で症状は軽快しますが、たまに数ヶ月痛みが続くことがあります。単純性股関節炎ではMRIで股関節の水腫がみられることがありますが、ペルテス病のように骨の中が異常に写ることはありません。時に単純性股関節炎とペルテス病の鑑別が難しいときがありますので、少しでもおかしいなと思った場合はご自身で判断をせず医師の診断を仰ぐようにしてください。