先天性内反足
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先天性内反足とは?
生まれた時から足全体が内向きで、足くびが硬く、正常な形にもどせない病気です(図1)。軽症では、足を外向きに戻そうとすると、真直ぐに近くなりますが(図2)、重症では、ほとんど動きません(図3)。足くびは柔らかくて、足の前方が後方と比べて内側に曲がっているものは先天性内反足ではなく、内転足です。これについては後述します。 先天性内反足は約1000人に1人の割合ですが、ご家族の方に内反足の人がいらっしゃると約300人に1人と、少し多くなります。男女比は2:1で男の子に多く、片足だけ内反足のケースと両足とも内反足のケースはほぼ同数になります。他の病気を合併していない特発性のものと他の病気を合併している症候性のものに分けられます。奇形性では多発性関節拘縮症、二分脊椎、筋緊張性ジストロフィー症などの病気を伴います。
先天性内反足では、踵骨(かかとの骨)の前側が距骨(踵骨と足くびの間にある骨)の下にもぐりこんだ状態になっています。正常な足のレントゲン検査では、前からみても、横からみても踵骨と距骨がV字型に開いた状態になっています。先天性内反足のレントゲン検査では前からみると踵骨と距骨が重なった状態で、横からみると踵骨と距骨が平行な状態です(図4, 5)。
図1 足全体が生まれつき内を向いている
図2 軽症のケース
図3 ほとんど動かない重症のケース
図4 正常な足の正面(左)と背屈側面(右)
図5 先天性内反足の正面(左)と背屈側面(右)
先天性内反足の治療法について
神奈川県立こども医療センターでは赤ちゃんの体の状態が安定する生後2~3週よりギプス矯正を行っています(図6)。週1回で10回程度ギプスを巻いた後にレントゲン検査をして、ほぼ良い状態まで回復した後はデニスブラウン装具を使います(図7)。
レントゲン検査で踵骨と距骨がV字型に開いた状態になっていても、足くびが固い場合にはアキレス腱だけを切る簡単な手術をすることがあります。また、レントゲン検査で踵骨と距骨が重なった状態が改善せず、足くびがかなり固い場合には生後6ヶ月から1歳くらいの間に後内側解離術という手術を行います。これはアキレス腱や後脛骨筋腱(足を内側に曲げる筋肉)を延長し、足関節や足の骨の固いすじを切って、踵骨と距骨をV字型に開いた状態にして、キルシュナー鋼線という医療用の針金で固定する手術です(図8)。ただし、神奈川県立こども医療センター 整形外科では足の柔軟性を保ち、距骨の血のめぐりが悪くならないように距踵関節(距骨と踵骨の間の関節)は切らずに整復(亀下法) を行います。この手術法はやや難易度が高いのですが、術後の足部柔軟性を最大に保つために努力しています。キルシュナー鋼線は術後4週で抜きますが、ギプス固定は術後6週まで続け、その後に装具に移行します。
図6 ギプス矯正
図7 デニスブラウン装具
図8 キルシュナー鋼線で固定する手術
デニスブラウン装具を使用した患児は、つかまり立ちを始める時期に夜間保持用短下肢装具(夜だけはめるプラスチック製の装具)に切り替えます(図9)。また、外を歩くようになったら足底挿板という靴の中敷や靴型の装具を作ります(図10)。歩くようになっても足底接地できない(足の外側だけしか、地面についていない)場合やあまりに内向きが強い場合には、4~5歳頃までに同様に後内側解離術をする場合があります。
図9 夜間保持用短下肢装具
図10 足底挿板
先天性内反足のギプス治療は治療開始時期よりも確実に行うことが大事です
先天性内反足のギプス治療は早さよりも確実に行うことが大事であり、慣れていない医者がみようみまねでやっても、うまくいきません。神奈川県立こども医療センターでは赤ちゃんの体の状態が安定する生後2~3週からで十分と考えています。体の状態が安定しているのに2~3ヶ月様子だけみることは間違いですが、安定していなければ2~3ヶ月待つこともあります。ちゃんと治せるかどうかは、治療開始の早さではなく、内反足の重症度と医者の治療技術により決まります。手術はもちろんのこと、初期のギプス治療も専門の施設で始めるべきと考えます。
先天性内反足の手術をすると足が硬くなってしまうので、やめた方が良いのか?
最近では先天性内反足に対してギプス矯正、アキレス腱皮下切腱、足部外転装具にて治療するポンセチ(Ponseti)法が主流となっています。足の骨の配列異常を正そうとして距踵関節(距骨と踵骨の間の関節)を切って整復するシンシナティ(Cincinnati)皮膚切開による距骨下全周解離術(通常の施設ではこの方法を行ってきました)を施行すると足の柔軟性が損なわれてしまうため、ポンセチ法が広く行われています。しかし、重症例では、足の骨の配列異常を正さないといずれ変形再発を起こし痛みの原因となるため、以前、当センターで整形外科部長を務めていた亀下はできるだけ柔軟性があり、しかも正確な整復を目指して、距踵関節を切らない後内側解離術を30年間にわたって開発してきました。神奈川県立こども医療センターの後内側解離術は技術的に難しく、他の病院の医者から、職人芸といわれたりしますが、確実に伝承されている手術法です。ギプス治療後に再発した子や内向きの変形が残ってしまった子に対しても、他の病院で行っているシンシナティ皮切による距骨下全周解離術や創外固定による手術よりも柔軟性のある足に治すことができます。(図11, 12)
図11
図12
先天性内反足の治療を行った患児のスポーツ活動について
生後3ヶ月以内に神奈川県立こども医療センターを受診し、15歳以上まで経過を診た特発性先天性内反足、50人(男40、女10)76足(両側26人、片側24人)を対象として、中学、高校でのスポーツ活動を調査しました。調査時の年齢は平均17歳(15~30)で、保存群(ギプス、装具で治療ができた)12人、手術群38人でした。
歩く時に痛みを訴える子はいませんでしたが、長距離走が苦手な患児が保存群で1人、手術群で3人いました。しかし、全員、学校の体育は可能で、野球やサッカーなどの学校のスポーツクラブ活動は保存群で6人(50%)、手術群で23人(60%)が行っており、ほぼ満足できる割合でした。ただし足の力はあっても、ふくらはぎの細さや足の小ささは残ることが多く、重症の子ほど正常の足に比べて、細くて、小さい傾向があります。
先天性内反足治療における通院期間について
重症度にもよりますが、夜だけはめるプラスチック製の装具は4~5歳くらいまで、足底挿板という靴の中敷は小学校高学年か場合によっては中学生まで使うことがあります。大人の足になる中学生か高校生くらいまで診せてもらうことが多いですが、小学生からは1年に1回くらい通院するだけです。
多発性関節拘縮症に合併した先天性内反足で治療は困難と言われたのですが?
症候性の先天性内反足も最重度例でなければ、通常の後内側解離術で治すことができます。しかし、先天性多発性関節拘縮症に伴う最重度のものでは神経や血管の緊張があまりに強いために距骨摘出術(距骨を摘出して後内側解離を行う手術)を行わなければ治せないことがあります(図13, 14)。先天性多発性関節拘縮症とは生まれた時に多発性の変形拘縮や脱臼がみられる原因不明の症候群の総称です。先天性内反足、先天性垂直距骨、先天性膝関節脱臼、先天性股関節脱臼、手の屈曲拘縮などを伴います。距骨摘出術後は屋内では素足歩行できますが、屋外歩行では短下肢装具が必要なことがあります。
図13
図14
内転足と診断された場合の治療法について
生まれた時に足の動きは良いのに、足の前方が後方に比べて内側に曲がっているものを内転足といいます。たいていは子宮内で足が内向きになっていたのが原因で、自然に治るものも多いですが、歩きはじめてからも内向きが残り、装具治療が必要な場合もあります(図15)。そこで神奈川県立こども医療センターでは内転足が明らかな赤ちゃんには、指の骨折などに使うアルフェンスシーネを使って、自宅で入浴時以外につけてもらっています(図16)。固定につかう紙テープはかぶれにくい3Mテープで、上に巻く包帯は取れないようにゆるめに巻いておくだけです。早いタイミングで治療開始できれば、たいていは1ヶ月くらい固定を行うと良くなります。
図15
図16