環軸椎亜脱臼(不安定症)
環軸椎亜脱臼(不安定症)について
7個の骨からなる首の骨(頸椎:けいつい)の上から1番目の環椎が2番目の軸椎に対して前方へずれる不安定な状態です(図1, 2)。ダウン症に頻度が高いことで知られ、ダウン症の患者さんでは10~30%に環軸椎不安定性があるといわれています。ずれの程度によっては、頸椎の中を通る脊髄が圧迫されたり、損傷することがあります。脊髄は、脳から発信された手足や呼吸運動の動作命令の末梢への伝達や、皮膚などからの感覚を脳へ伝達する器官であることから、圧迫や損傷など、環軸椎不安定性により脊髄麻痺症状が出現する例があり、文献的には1%程度と言われています。 症状としましては、手足の力が弱まり、階段が苦手になったり、びっこを引いたり、歩いても直ぐ座るようになってしまったり、コップやスプーンをよく落とすようになったりします。ひどくなると排尿や排便の機能が落ちて、漏らしたり、逆に出なくなったりします。重篤なものは四肢麻痺や呼吸筋麻痺に至り、突然死のリスクとなります。感覚麻痺は、皮膚感覚が変化したり、手足がしびれたりしますが、ダウン症等の場合、本人が上手く表現できないケースがほとんどです。 それ以外にも、首や後頭部を痛がる、首を動かそうとしない、首や顔が横に向いたままもとにもどらない(斜頸)など、首や頭の症状が出ることがあります。
図1 ずれてないレントゲン写真とMRI
図2 ずれているレントゲン写真とMRI
環軸椎亜脱臼(不安定症)の治療法について
環軸椎亜脱臼の進行性のある例は、保存的な治療では制御困難です。簡易的な頸の装具が処方されることがありますが、この頭頚移行部(頭蓋骨と頸椎の継ぎ目)の制動には、簡易型の頚椎装具はほぼ無効であることがバイオメカニクスの研究で分かっています。周囲に対して頸椎に問題を有している事を示すサイン程度にはなるかも知れませんが、いざというときの患部の保護には役立ちません。また、ダウン症のお子さん達のように軽度の精神発達遅滞があるお子様達は、いかなる頚椎装具も本来機能するために必要なしっかりとした装着をほぼしてくれません。そのため、小児頸椎手術をする医師の頭の中には、ダウン症のお子さん達に対する中間的な保存治療は存在せず、患児のリスクをしっかり見極め、必要な患者には症状出現前に手術を提案することが多いです。自覚症状の聴取が困難な症例が多いことから、神奈川県立こども医療センター 整形外科でも、明らかな麻痺症状や歩行不安定性を示している患者様はもとより、症状発現に至っていなくても、レントゲン画像上で明らかに環軸椎不安定性が見られる場合やMRI画像上で環椎部の脊髄萎縮(環椎による圧痕像)や脊髄内の輝度変化を呈すものには、積極的に手術をお勧めしています。その最大の理由は、症状が進行してしまった患者様の術後成績は必ずしも良好ではなく、神経症状の悪化を予防するにとどまることが多いからです。出現してしまった麻痺症状の完全回復は期待できない、ということです。
当科手術例
術前
術後