大腿骨頭すべり症
大腿骨頭すべり症とは?
股関節は大腿骨頭(大腿骨の球形をした先端)が、骨盤の臼蓋(ボールをうけるカップをひっくりかえした屋根のような骨)にはまりこんでいる関節です。大人になると大腿骨頭はひとつの骨になりますが、こどもの時は骨端線(線といっても、実は面)という軟骨で骨が成長しています(いわゆる成長線)。大腿骨頭すべり症とは骨端線のところで、半球形の大腿骨頭の上の部分が後ろにすべってしまう病気です(図1)。初期では普通のレントゲンではわかりにくく、CTを撮らないとわからないこともあります。骨端線は骨になってしまう前が一番弱くなるので、小学校高学年から中学生ですべりやすくなります。特に体が大きくなったり、重くなっても骨の成長が遅かったり、成長期にスポーツをしすぎたりすると、発症することがあります。
大腿骨頭すべり症は急性と慢性があります。急性では、骨折した時のような激痛を生じることがあります。慢性では徐々にすべりが生じて、軽い股関節痛が出たり足をひきずって歩くようになりますが、転びそうになった時などに急にすべりが悪化し、激痛が生じることもあります。
図1
大腿骨頭すべり症の治療法について
大腿骨頭すべり症では、なんらかの手術が必要になります。急性すべり症で、骨のずれ方が大きく、足を全くつけられないくらい痛みがある場合には、なるべく早く麻酔をかけて、ずれを戻してチタン製のスクリューで固定します(図2)。ずれが大きい場合には固定した後も骨頭壊死(次の項目で詳しく説明します)を起こしやすいので、体重をつけて歩く訓練を始めるまで4ヶ月かかります。 慢性すべり症で、ずれが少ない場合には、ずれを戻さずにチタン製のスクリューで固定します(図3)。この場合には2ヶ月してから体重をつけて歩く訓練を始めます。慢性すべり症で、ずれが大きい場合には、骨頭より下の大腿骨で骨を切って、ずれを戻して、チタン製のスクリューとプレートで固定します(図4)。この場合にも骨頭壊死を起こしやすいので、体重をつけて歩く訓練を始めるまで半年くらいかかる場合もあります。学校に通いながら、体重をつけないようにするのは難しいので、当センターでは肢体不自由児施設に入所し、院内の学校に通いながら、普通に歩けるようになるまで治療を行います。
図2
初診時(左)
整復・骨端固定術後(右)
図3
術前(左) 術後(右)
図4
術前(左) 術後(右)
大腿骨頭すべり症の合併症や後遺症について
大腿骨頭すべり症でずれが大きい場合には骨頭壊死や軟骨融解を起こすことがあります。骨頭壊死とは骨頭へ向かう血のめぐりが悪くなって弱くなってしまうことです。MRIでないとわからないことも多いです(図5)。軟骨融解は関節の軟骨というクッションのようなものが、なくなってしまうことです。いずれも成長期では、体重をつけないようにしていると回復してきますが、1年くらい体重をつけない必要があります。骨頭壊死のように弱くなった時に体重をつけていると、骨頭がつぶれてしまい、後遺症として残ってしまいます。しかし、ずれが大きい場合やダウン症などの基礎疾患がある場合には体重をつけないようにしても骨頭変形が避けられない場合もあります。
図5
骨頭壊死のレントゲン像(左)
骨頭壊死のMRI像(中)
正常大腿骨頭のMRI像(右)