キアリ奇形
概要
キアリ奇形とは、本来頭蓋骨の中にあるべき小脳や脳幹の一部が、大孔(頭蓋骨の出口の穴)を通って下垂し、脊柱管内へ陥入する病気です。約半数に脊髄空洞症(脊髄の中に水がたまり、空洞になってしまったような状態)を伴い、その1/3程度に側彎(背骨の左右のゆがみやねじれ)を伴います。 頭蓋内から脱出した組織や合併する疾患によって1~4型に分類されますが、臨床的には主に1型と2型が重要です。キアリ奇形1型は、小脳扁桃という部分のみが脊柱管内に下垂するもので、後頭骨の低形成が原因とされています。年齢によって症状は異なりますが、主にいびきや睡眠時無呼吸がみられたり、飲み込みにくさや、咳やくしゃみによって頭痛が誘発されたりすることがあります。脊髄空洞症を合併すると手のしびれや筋力低下を自覚することもあります。キアリ2型は、小脳中部という部分の下部、延髄、橋、第4脳室が脊柱管内へ陥入するもので、乳幼児期までに発見されることが多く、ほとんどが脊髄髄膜瘤や水頭症を合併します。症状のない場合が多いですが、約10〜30%で飲み込みにくくなったり、息を吸い込むときにヒューヒュー、ゼーゼーと音がしたり、無呼吸発作を伴ったりと、重度の症状をきたすこともあります。
診断は主にMRI検査で行います。キアリ奇形だけでなく、脊髄空洞症の合併の有無とその範囲を確認することもできます。その他側彎や頭蓋骨の形成異常、キアリ奇形2型で合併する水頭症の評価のためにCTやX線検査の検査を行うことも一般的です。
治療法
キアリ1型
頭蓋骨の出口から脊柱管にかけての空間を広げて、小脳や脳幹の圧迫を解除することを目的に手術を行います。まず大孔と第1頚椎の一部を削り(→大孔減圧術+C1椎弓切除術)、さらに硬膜を切って広げ(→拡大硬膜形成術)脳の入っている空間を広げます。術後に症状や脊髄空洞症が改善する場合が多いですが、神経症状は改善しにくい場合もあるため、症状の進行を抑えることが手術の主な目的となります。
症例:脊髄空洞症を合併
術後は大孔から第1頚椎にかけての空間が広がって小脳扁桃は頭蓋内へ納まっており(黄色矢印)、脊髄空洞症は改善していることがわかります(橙色矢印)
(左:術前 右:術後)
キアリ2型
まず合併する脊髄髄膜瘤の修復術と水頭症に対するシャント手術が優先されます。これらの治療を行ったにも関わらず症状が出現した場合は、キアリ1型同様の手術(大孔減圧術+C1椎弓切除術+拡大硬膜形成術)が必要となります。重症例では、気管切開に至ったり、人工呼吸器から離脱できても酸素投与が必要となったりすることもあり、新生児科や小児科と連携した治療が重要となります。