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当院の治療方針・成績

腹膜・胸膜播種に対する治療

お知らせ
2022年10月現在、温熱化学療法の対象疾患はDSRCT(線維形成性小円形細胞腫瘍)に限らせていただいております。
体制が整い次第、他の疾患にも対象を拡大する予定ですが、現在のところ未定です。
またDSRCTについては、当院は小児病院ですので、原則当院初診時に20歳以下の患者さんとさせていただいています。

播種があってもあきらめない!

近年の医学の進歩により、小児がんの治療成績は大きく向上しました。以前は『不治の病』とされていましたが、現在では70〜80%の方が治癒を得られるような時代になってきています。適切な治療を受けることで、小児がんは『治せるがん』の代表とまで呼ばれるようになってきました。
しかし、それでも病状が進行し、播種と呼ばれる状態になってしまうと、非常に予後が不良になります。播種とは、種をまかれたように小さな腫瘍がばらまかれたような広がり方をしてしまった状態です。胸の中や腹部に播種した状態を、腹膜播種、胸膜播種と呼びます。播種した腫瘍は、通常、手術だけではとりつくせず、目に見えない小さな腫瘍が残ってしまいます。放射線治療を行おうとしても、広い範囲に広がってしまう播種の場合には、肺や腸などの正常臓器にも放射線があたってしまうため、治療に十分な量の放射線治療が行えません。結果、腫瘍を抑えることができません。
このような状態でも、あきらめない治療として、我々は「温熱化学療法」という新しい治療法を試しています。

「温熱化学療法」とは

温熱化学療法イメージ当センターで我々が行っている実験的な治療法の一つです。
きわめて小さな腫瘍まで外科的にできる限り取り尽くした後、化学療法剤を40~41℃に温めながら腹腔内/胸腔内に流し込み、ポンプでぐるぐると循環させる方法です。(灌流法といいます。)
化学療法剤を血管内に投与し全身に効果を及ぼす全身療法とは違い、効果があるのは加温した化学療法剤にさらされた数mm程度の領域です。手術や放射線と同様の局所療法の仲間になります。
熱による腫瘍への直接効果がある、従来の使い方より高い濃度の化学療法剤に直接腫瘍をさらすことができる、熱を加えることで化学療法がより腫瘍に効果を及ぼしやすくなる、などの効果が期待できます。

播種性腫瘍に対する温熱療法は特に成人領域で以前から行われてきたもので、珍しいものではありません。しかし、加温した化学療法剤を腹腔内に灌流する方法は近年行われるようになったものであり、まだ試行錯誤の段階です。小児に対してはMDアンダーソンがんセンターという米国の有名ながん治療施設が発表した方法で、繊維形成性小円形細胞腫瘍(desmoplastic small round cell tumor : DSCRT)という腹膜から発生して腹腔内全体に播種状に広がる悪性腫瘍に対してこの治療法がとられました。この腫瘍は発見時には既に巨大化していることが多く、ほとんどの場合外科的な完全切除は不可能な状態で見つかります。化学療法も一定の効果は示しますが、通常の使い方では腫瘍の根絶は難しく、従来の治療成績は3年生存率10~30%と惨憺たるものでした。2010年、MDアンダーソンがんセンターのHayes-Jordanらは、DSRCT 8例に対してこの温熱化学療法を含むを治療を行って、3年生存率71%(非施行群26%)と良い成績を得たと論文報告しました。

当センターもこの報告を参考に、2011年からDSRCTに対して温熱化学療法を開始しました。国内で小児に対して行う温熱化学療法としては当センターが初の試みでした。
以後、対象と適応を拡大しながら2020年3月までの間に、14例18回の温熱化学療法を施行しました。(同一患者で複数回施行例あり)

温熱化学療法の種類 対象疾患 実施回数
腹腔内温熱化学療法(HIPEC) 線維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT) 4例 5回
胸腔内温熱化学療法(HITHOC) 骨肉腫(胸膜播種、胸膜浸潤) 6例 8回
肝腫瘍(胸膜播種) 1例 1回
悪性ラブドイド腫瘍(胸膜播種) 1例 1回
ウィルムス腫瘍(胸膜播種) 1例 2回
合計 13例 18回

まだ判定途中ではありますが、局所の腫瘍を押さえ込むことが出来た症例もあり、温熱化学療法の効果に期待できるものでありました。また、合併症として、腹腔内温熱化学療法の場合に腎臓の機能の悪化を起こすことがあること、胸腔内温熱化学療法の場合には大きな問題なく試行することができることが確認できました。

これまで歯が立たたず難治とされた小児がんに対する有力な武器一つになるのではないかと期待している治療法です。

よくある質問と答え

Q1.

手術室で行うのですか?

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A1.

手術室で、全身麻酔をかけながら、手術室で行います。基本的には腫瘍を取り尽くす手術に連続して行いますが、2回の手術にわける場合もあります。

Q2.

時間はどれくらいかかりますか?

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A2.

温熱化学療法自体は、加温した状態で90分間行います。実施時の温度の状況により実施時間が多少短くなったり長くなったりします。腫瘍を取り尽くす手術が3時間~8時間くらいかかりますので、引き続き温熱化学療法を行う場合にはそれに90分が追加されます。

Q3.

苦痛がありますか?

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A3.

手術中は全身麻酔がかかっているので、苦痛はありません。術後も創部の痛み以上の苦痛はありません。発熱や胸水・腹水の貯留が一時的にみられる場合があります。

Q4.

術後どれくらいで回復しますか?

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A4.

術後、最低1晩はICUに入ります。その後は合併症の有無などによりますが、翌日に一般病棟に上がれる場合が多いです。順調にいけば数日〜1週間弱で離床できます。

Q5.

対象となる疾患や状況は何ですか?

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A5.

以下のような条件があります。

  • 温熱化学療法に使用するシスプラチンに感受性があると考えられる小児がんであること
  • 胸膜播種もしくは腹膜播種の存在が、画像検査や病理検査(細胞診)などで証明されていること
  • 治療が実施できると思われる全身状態や臓器機能を有すること。重篤な臓器障害(特に腎障害)がないこと
  • 播種以外の遠隔転移があってもそれだけで不適応とはしないが、何かしらの病状コントロールの目処が立っていること

Q6.

費用負担などありますか?

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A6.

通常の治療費以上の追加の負担はありません。

Q7.

現在他の病院で治療を受けています。温熱化学療法だけを受けに来ることができますか?

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A7.

他院で治療中でも温熱化学療法を受けることができます。転院もしくは退院して、当院で温熱化学療法だけを施行し、回復後に元病院にもどることが可能です。状況によっては、前後の化学療法や放射線治療を当院で行うことも相談にのることができます。

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