かつて一所に小児がんの治療に携わり多くの子どもの命を助けながら、病を得て早逝した学生時代からの友人が常々口にしていた言葉があります。曰く、小児がんの治療はアートである。小児がん治療には多くの診療科、多くの部門のスペシャリストが関わって、最適なタイミングでそれぞれの領域の専門的治療を提供していかなければ、がん細胞の増殖を抑えて病気に打ち勝つことができません。オーケストラに参加して音楽にも造詣の深かった彼の目には、スコアの上のどの音符も遅れることなく正確に演奏されて生まれる美しいハーモニーと、小児がん治療が重なって見えていたのだと思います。彼の言葉は今もそのまま僕の中で座右の銘になっています。さらに小児がんでは治療のみならず、薬の副作用から全身を守ることや、診断、分子生物学的な情報解析も重要です。もっと大切なことは患者さん自身や、一所に病気と闘っている家族、その家庭をしっかり支えることです。これらに関わる沢山の人達の努力をまとめて複雑な治療を進めてゆくためには、みんなが集まる核となる組織が必要です。それが小児がんセンターなのだと思います。多くの職種、多くの部門から色々な専門技術を持った小児がんのスペシャリストが集まって、国や地域の行政とも連携しつつ小児がんの臨床、研究を進めて、患者さんやその家族の方々と一所にこの病気と闘い、やがて元気になった患者さんを社会へ送り出してゆく・・・それが小児がんセンターの役割だと思います。小児がんセンターの名の下に集まった沢山の人たちが一所に闘っていることを知って、あなたが少しでも勇気づけられれば嬉しいです。